読解力は落ちているのでしょうか

皆さんこんにちは

教育の情報化の手引きの公開が遅れている中、国からは経済政策としての1人1台端末の導入や、校内LANの整備しなおしのための補助金等矢継ぎ早にICT関連の政策が明らかになっています。
教育に関する投資はその効果が表れるのが長いスパンのため、「今必要なのか」ということにとかくなりがちです。
特に1人1台に関しては「結局教員の負担が増えるだけだ」「誰が管理するんだ」「机の上が狭すぎる」「どうせ利権がらみ」「書かないと覚えない」等の否定的な声がよく聞こえてきます。それぞれの批判はそれぞれ一理あるものばかりですが、その一つをもって全体を全否定、というのは残念な気がします。
そういう心配点があるから、導入時に気をつけようね、という形になればいいのにな、と思います。

今1人1台という経済対策が取られた理由は一つではないでしょう。物事の理由がたった一つだけ、なんて誰も動きません。複合的な要素が絡み合って、今この政策が取られたということだと考えられます。今日はその要因になったのかも?と思われる資料を確認していきたいと思います。

統計資料を読むイメージ

新聞の一面にも大きく報道されたPISA2018テストの結果を見ていきましょう。
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/index.html
そもそもPISAとは何でしょうか?なぜこの結果が大変な騒ぎになるのでしょうか?

PISAとはProgramme for International Student Assessment の略で、国際的な学習到達度に関するOECDが進めている調査です。
OECDとは現在36か国が加盟している経済協力開発機構です。機構というからにはそこに勤める職員がいるわけですが、その役割は1,700名を超える専門家を抱える世界最大のシンク・タンクであり,経済・社会の幅広い分野において多岐にわたる活動を行っている国際機関とあります。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oecd/gaiyo.html
 経済協力開発なのになぜ教育か?というと、経済の発展には教育が必要である、と考えられているからですね。OECDの概要には教育分野の3つの活動が紹介されています。
https://www.oecd.emb-japan.go.jp/itpr_ja/00_000130.html#about9
 このうちPISAは教育関連のその他の活動欄に見つけることができます。
https://www.oecd.emb-japan.go.jp/itpr_ja/00_000182.html
 今回は2018年に行われた調査の結果が発表されたというわけです。

 15歳児を対象に読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの三分野について、3年ごとに本調査が実施されています。
 2018年のPISAには79の国と地域が参加したとのことです。可能な限り言語による差等ができないよう配慮された調査内容で、国際的な指標になるということで、自国の位置づけを客観的に知るために参加する国や地域が増えてきています。2015年は72の国と地域、2012年は65の国と地域でした。

 2018年調査のポイントは
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2018/01_point.pdf
 にありますが、読解力は参加国中15位(統計的に有意な差がないのは11位から20位)数学的リテラシー6位(統計的に有意な差がないのは5位から8位)科学的リテラシー5位(統計的に有意な差がないのは5位から6位)という結果のため、「読解力が前回調査の6位から15位に下がった!!!」という報道になったわけですね。

 それでは、この調査結果の概要には日本はどのように分析されているかというと、
◆読解力の平均得点(504点)は、OECD平均より高得点のグループに位置しているが、前回2015年調査 (516 点)から有意に低下。OECD加盟国中11位(順位の範囲:7-15位)。

◆習熟度レベル1以下の低得点層が有意に増加しており、OECD平均も同様の傾向。
 ということで、前回の調査の平均点から今回の調査の平均点は有意に低下しています、ということは事実としてその通りです。また、習熟度レベル1以下の低得点層が前回調査より有意に増加している、それはOECD平均も同様の傾向があり、日本だけ特別ではない、ということです。
 もちろん、平均点は調査毎に変化しますから、平均点が下がったことが即読解力が下がったということには直結しません。

◆平均得点の2000年~2018年の長期トレンドに関するOECDの分析によると、日本の読解力は、平均 得点のトレンドに統計的に有意な変化がない国・地域に分類され、そのうち「平坦」タイプに該当。

 ということで、読解力は2000年から2018年まで統計的に有意な変化がない、と分析されています。
 平均得点が上昇傾向だと分類されているのはマカオ、エストニア、ドイツ、ポーランドです。
 ではこのOECDのPISAによる読解力とはどのような定義なのでしょうか。
 「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達 させ、社会に参加するために、テキストを理解し、 利用し、評価し、熟考し、これに取り組むこと。」
とあります。
もう少し詳しく「※太字部は2018年調査からの定義変更箇所
○コンピュータ使用型に移行し、デジタルテキストを踏まえた 設計となったため、「書かれたテキスト」から「テキスト」に変 更。(デジタルテキスト:オンライン上の多様な形式を用い たテキスト(Webサイト、投稿文、電子メールなど) )
○議論の信ぴょう性や著者の視点を検討する能力を把握す るため、テキストを「評価する」という用語を追加。」ということですね。

 それでは、測定しようとする能力ですが、
PISA2018で測定しようとしている読解力

OECD生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント P4より引用
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2018/01_point.pdf
このようになっています。これらをもとに分析すると、平均点の低下に与える要因については
「生徒側(関心・意欲、自由記述の解答状況、課題文の内容に関する既存知識・経験、コンピュータ画面上での長文読解の慣れ 等)、問題側(構成、テーマ、テキストの種類、翻訳の影響等)に関する事項などの様々な要因が複合的に影響している可能性があると考えられる。」
ということが考えれる、とあります。実際にどんな問題がどのように表示されたのか、サンプル画面を見ることができるので確認してみましょう
PISA2018サンプル画面

2018年調査問題例P5より引用
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2018/04_example.pdf
問題の見やすさ等については国際的に調整がなされているとのことですが、パソコンの画面を見慣れていないと読みづらい印象があります。日本の15歳はパソコンの画面でテキスト情報を読み、必要な情報を取捨選択するという活動を授業ではあまり行っていませんね。

続いての分析では
「読解力を測定する3つの能力について、それらの平均得点が比較可能な2000年、2009年及び2018年 (読解力が中心分野の回)の調査結果を踏まえると、

  • ・「2理解する」能力については、その平均得点が安定的に高い。
  • ・「1情報を探し出す」能力については、2009年調査結果と比較すると、その平均得点が低下。特に、習熟度レベル5以上の高得点層の割合がOECD平均と同程度まで少なくなっている。
  • ・「3評価し、熟考する」能力については、2009年調査結果と比較すると、平均得点が低下。特に、2018 年調査から、「質と信ぴょう性を評価する」」「矛盾を見つけて対処する」が定義に追加され、これらを問う問題の正答率が低かった。

また、各問題の解答状況を分析したところ、自由記述形式の問題において、自分の考えを根拠を示し て説明することに、引き続き課題がある。誤答には、自分の考えを他者に伝わるように記述できず、問 題文からの語句の引用のみで説明が不十分な解答となるなどの傾向が見られる。」
となっています。
情報を探し出す、評価し、熟考するという活動について、今回の調査はパソコン上に表示されたテキストをもとに評価しています。
調査がパソコンに変わったのは前回からですが、前回は特に読解力は低下、という結果になっていないので一概にパソコンの画面を見慣れていない、というのも言えませんね。

 したがって我々としては「パソコンでもっと授業すればもっと読解力があがるよ!」という結論にすぐさま飛びつきたいところではありますが、物事はそう簡単ではない、ということが言えますね。

 聞こえてくる話だけではなく、できるだけ原典に近いものを読んで、自分で確認するという作業が必要です。本当は英語の原本を読むべきなのですが、今回は日本語版に頼りました。もう少し分析内容について詳しくお伝えしていきたいと思います。

 何かご質問、ご意見等ございましたら是非お聞かせください。
よろしくお願い申し上げます。

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